蒸気に関するWebマガジン|スパイラックス・サーコ
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温水をつくる-貯湯槽編- 第1回

蒸気に関するWebマガジン No.54

温水をつくる-貯湯槽編- 第1回

温水は非常に身近な熱媒体です。工業はもちろんのこと、ホテル、病院や商業施設といった一般施設においてもよく利用されます。蒸気の熱の利用先として最も使われることが多い用途は温水をつくることではないでしょうか。温水をつくる方法はいろいろありますが、その中でも今回は最も基本的な蒸気で加熱する貯湯槽について考えていきたいと思います。

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貯湯槽の目的は他の給湯設備と同じく第一に温度を安定させることが目的になります。その上で、一定量の保有水量があるので瞬間的な負荷に対しての対応に優れています。

実際に設計してみましょう。せっかくなので、実際に数字を当てはめて考えてみましょう。

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Icon1.png① 貯湯槽の容量

まずは貯湯槽の大きさです。貯湯槽の大きさは継続供給力です。貯湯槽の保有水量は最大使用流量に対してどれだけの容量をもっているかで選定します。保有水量は補給水の供給が停止した場合に稼働が可能な時間を想定します。設計思想に依りますが30分から2時間程度の保有水量で設計することが一般的といえるでしょう。この場合仮に1時間の想定としてみましょう。

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注意:過大選定は必ずしもいいとは限りません。設備では大は小を兼ねないことはよくあります。貯湯槽の場合は、スペースの負担、荷重の負担、レジオネラ繁殖のリスク等が増えてしまいます。適切な大きさに設計しましょう。

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Icon2.png② 熱負荷と追従性

貯湯槽の大きさが決まったら、熱交換器を考えてみましょう。熱負荷の最大に合わせるのが基本になります。仮に10℃の補給水を60℃まで加熱するとしましょう。

熱交換器単体で考えた場合は最大流量の10℃の水を60℃まで加熱する。

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貯湯槽で考えた場合に、少し時間を刻んで考えてみましょう。仮に貯湯槽の温度が60℃の状態で、最大流量が6分間流れたとします。そうすると1m3の60℃の温水が出ていき、1m3の10℃の補給水が入ってきます。この状態では平均温度55℃の10m3の温水がタンクに入っています。*(簡易的にするため、計算上6分毎のポイントでの加熱にしています。)

No.56-6.png※上の二つのモデルはどちらも加熱した熱量はおなじです。

熱量と熱交換量

同じ熱量なことはわかりましたが、同じように熱交換できるかが問題です。
熱交換量を決める要素は①熱交換器熱伝達率、②伝熱面積、③流体温度差の3つあります。この中で、運転中に変わる条件が③の流体温度差です。熱交換器は温度差が大きければ熱交換しやすく、温度差が小さければ熱交換しづらくなります。

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つまり、熱交換器は同じ熱量でも少量で温度差が大きい方が熱交換量を大きくできるのです。

計算の詳細はこちらのブログにて解説しています。

つまり最大流量で計算した場合でも貯湯槽のバッファを考慮した場合には、ピーク負荷が続くと熱交換容量が足りずに温度低下が起きます。下のグラフで示すように貯湯槽の温度が55℃に9分後には低下します。

No.56-8.png貯湯槽は瞬間的なピーク負荷に対しては温度低下が発生しにくい反面、長時間のピーク負荷に対しては、徐々に温度を低下させてしまう特性があります。これは貯湯槽のサイズを大きくしたり熱交換器のサイズを小さくするとより顕著になります。

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次回の温水をつくる-貯湯槽編-第2回では、『③温度ムラとレジオネラ菌対策』、『④ドレン滞留と熱交換器のパンク』、『⑤緊急時の貯湯槽の役割』について解説します。

こちらの記事の対となる『温水をつくる‐瞬間給湯編』を公開いたしました。合わせてご覧ください。