蒸気に関するWebマガジン|スパイラックス・サーコ
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温水をつくる_貯湯槽編_詳細計算

蒸気に関するWebマガジン No.38

温水をつくる-貯湯槽編-

詳細計算

熱負荷と追従性 (SteamLReader-5ページ)

貯湯槽の大きさが決まったら、熱交換器を考えてみましょう。熱負荷の最大に合わせるのが基本になります。仮に15℃の補給水を60℃まで加熱するとしましょう。

◆Case1:熱交換器単体の場合

熱交換1.jpg

計算解説

公式:Q=mwCp(T4-T3)

Q =10m3/h × 4.19kJ/kg℃ × (60℃-10℃) 計算式1.jpg

  =2,095,000kJ/h

  =581.9kJ/s

  =581.9kW

これは熱交換器に補給水が絶えず供給されている状態での計算です。

つまり[10℃:10m3/h]をそのまま[60℃:10m3/h]に加熱して、加熱した直後にはすぐにどこかに供給され続けている状態です。これは水の水量で考えた場合に、積算流量(m3)と瞬時流量(m3/h)を同じように考えることができます。

◆Case2:貯湯槽と内部熱交の場合

貯湯槽で考えた場合に、少し時間を刻んで考えてみましょう。仮に貯湯槽の温度が60℃の状態で、最大流量が6分間流れたとします。そうすると1mの60℃の温水が出ていき、1m3の10℃の補給水が入ってきます。この状態では平均温度55℃の10m3の温水がタンクに入っています。*(簡易的にするため、計算上6分毎のポイントでの加熱にしています。)

熱交換2.jpg

計算解説

公式:Q=mwCp(T4-T3)

まず加熱される前の貯湯槽の温度を求める。

混合前と混合後では熱の総和は変わらないため、下記の式が成り立つ

補給水の熱量(Q1)+貯湯槽内の熱量(Q2)=混合後の熱量(Q3)

[1m3×Cp×10℃]₊[9m3×Cp×60℃]=[10m3×Cp×T℃]

= [1m3×10℃]₊[9m3×60℃]=[10m3×T℃] *Cpは全ての項にあるので、省略

式を整理し、混合後の温度を求める計算式2.jpg

T℃ =([1m3×10℃]₊[9m3×10℃])/10m3

=55℃

Q =10m3/h × 4.19kJ/kg℃ × (60℃-10℃)

=2,095,000kJ/h

=581.9kJ/s

=581.9kW

上の二つのモデルはどちらも加熱した熱量は581.9kWでおなじです。

熱量と熱交換量

同じ熱量なことはわかりましたが、同じように熱交換できるかが問題です。

熱交換量を決める要素は①熱交換器熱伝達率②伝熱面積③流体温度差の3つあります。この中で、運転中に変わる条件が③の流体温度差です。熱交換器は温度差が大きければ熱交換しやすく。温度差が小さければ熱交換しにくい。

熱交換3.jpg

計算解説

公式:Q=UAΔT

この公式をそれぞれ考えます。

U =熱伝達率

A =熱交換面積

ΔT =加熱流体平均温度-被加熱流体平均温度

=T1-(T3+T4)/2

*加熱側は蒸気の特性上、温度を一定に加熱することができる。

UとAはそれぞれ熱交換器が決まってしまえば、原則として変化することがありません。

蒸気温度(T1)と給湯出口温度(T3)も変化しないので給湯入口温度(T4)が変数になります。

QはΔTに比例し、ΔTはT4が上昇することで、下がります。

つまり加熱能力(Q)は給湯入口温度が上がれば、低下してしまうことがわかります。

は実際にCase1とCase2で比較してみましょう

◆Case1 熱交換器単体

U値は固定値としてAの値を求めてみましょう。 計算式3.jpg

Q =UAΔT

581.6kW =1 x A x(134℃-(60℃+10℃)/2)

=99A

式を並べ替えると

A =5.87m2

必要な伝熱面積は5.87m2になります

◆Case2 貯湯槽と内部熱交の場合

U値は固定値としてAの値を求めてみましょう。計算式4.jpg

Q =UAΔT

581.6kW =1 x A x(134℃-(60℃+55℃)/2)

=76.5A

式を並べ替えると

A =7.6m2

必要な伝熱面積は7.6m2になります

これはCase1と比べて約30%大きな熱交換器が必要なことがわかります。

同じ熱交換器を使った場合では

Qの値を求めてみましょう。計算式5.jpg

Q =UAΔT

=1 x 5.87m2 x (134℃-(60℃+55℃)2)

=449kW

熱出力は449kWとなり、必要な581.9kWより小さいため十分な加熱ができなくなります。

つまり最大流量で計算した場合でも貯湯槽のバッファを考慮した場合には、ピーク負荷が続くと熱交換容量が足りずに温度低下が起きます。下のグラフで示すように貯湯槽の温度が55℃に9分後には低下します。

時間経過.jpg

貯湯槽は瞬間的なピーク負荷に対しては温度低下が発生しにくい反面、長時間のピーク負荷に対しては、徐々に温度を低下させてしまう特性があります。これは貯湯槽のサイズを大きくしたり熱交換器のサイズを小さくするとより顕著になります。

表.jpg

◆蒸気の世界でつかう熱力学の公式については、下記のページで解説しています。

https://spiraxsarco.co.jp/blog/mt/blog/2020/05/post-28.html